1987年から2002年にかけて62の国立大学に設置された地域共同研究センター(固有名詞は大学によって異なる)は、日本における産学連携施策の嚆矢といっても良いでしょう。地域共同研究センターは、設立当時は、当該地域における大学の産学官連携活動の拠点という位置づけがあり、その活動内容は、当時の文部科学省の指導もあって、毎年、地域共同研究センター年報により公開されてきました。また、文部科学省の要請もあって平成5年から国立大学が法人化される平成16年前後まで、この地域共同研究センター年報には、共同研究の成果報告書が添付されています。
現在、共同研究の成果については、その実態を垣間見ることはもはやほぼ不可能になりましたが、かつては、具体的に、どういった企業の研究開発活動において、どのようなテーマと役割で大学教員が関与したのか、現在ではほぼ入手不可能な情報を得ることができます。過去の地域共同研究センター年報により、当時どのような産学連携活動をしていたのか、またそのアウトプットとしてどういった共同研究がなされていたのか、知ることが出来ます。一方で、国の産学官連携に関する施策は国立大学が法人化した平成16年度以降、大学の研究成果による知的財産を当該法人に帰属するために設置された知的財産本部の設置や、大学等の研究マネジメント等をおこなうURA制度の導入等、大きく変化してきています。これに伴い大学内での改組等により、かつての地域共同研究センターは、ほぼ消滅している状態になっています。個々の大学の産学連携における活動報告書は残念ながら殆どの大学で発行されていません。
しかしながら、地域共同研究センターが産学連携活動を通して蓄積されてきた活動のノウハウが十分に引き継がれずに、新しい組織が、同じような取り組みをしているケースが多く見受けられ、これが原因で十分な成果が得られないケースが発生したり、あるいは組織運営そのものが混乱しているケースが多々見受けられます。さらには、以上述べてきた状況の中で、地域共同研究センター年報は散逸の危機にあると言っても過言ではありません。
地域共同研究センター年報は黎明期の日本の産学官連携について知ることが出来て、更には未来への産学連携活動の道標になりうる貴重な資料であることから、産学連携学会は、平成26年度にアーカイブ委員会を立ち上げ、地域共同研究センター年報の収集に鋭意努力をして参りました。結果として現時点(令和3年5月)で、次の31大学の平成5年頃〜平成27年前後の地域共同研究センター年報(共同研究成果報告書)の収集を完了しています(総ページ数 28000ページ)が、若干が各地の大学図書館等に収蔵されていることも判明し、今後数大学は追加できる見込みです。
旧帝国大学等 |
北海道、東北、筑波、東京工業、京都、大阪、神戸 |
地方総合大学 |
弘前、福島、茨城、群馬、新潟、金沢、福井、富山、
三重、和歌山、鳥取、島根、岡山、山口、佐賀、大分、 宮崎 |
地方単科大学 |
北見工業、帯広畜産、小樽商科、室蘭工業、東京農工、
電気通信、九州工業 |
今までアーカイブ委員会は、これの電子化と産学官連携に関する研究活動を目的とする電子媒体の提供をするための費用の捻出を意図して、日本学術振興会の科学研究費の申請等、様々な方策を試みてきましたが、残念ながら現時点では、その目的は達成されていません。
しかしながら、かつて地域共同研究センターの活動に縁が有る等、こうした活動に共感を持っていただける方は今でも多数存在すると認識しており、今回、この事業に対する寄付をお願いする次第です。何卒ご理解、ご協力のほどお願い申し上げます。
令和4年5月吉日
産学連携学会 会長 石塚悟史
アーカイブ委員会 委員長 伊藤正実 |